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おもしろ薬辞典㉕ かつての名優が再びスターに


 ドラッグリポジショニング(Drug Repositioning)とは、かつての銀幕の名優が年を経て、新たな役柄で再びヒットを出すという返り咲きのストーリーだ。

 この代表選手がアスピリンだ。アスピリンは長らく解熱・鎮痛・消炎薬の大女優だった。このおなじみのアスピリンが、低用量で継続して飲むと「血が固まるのを防ぐ(血小板の凝集を抑える)」という別の役割が発見された。このためアスピリンは血栓予防の重要な薬として、脳梗塞の予防薬として高齢者を中心に毎日飲み続けられている。

 こうした既存の医薬品から、全く別の病気に効く新たな薬効を見出し、別の疾患の治療薬として実用化する手法のことを「ドラッグリポジショニング」あるいは既存薬の別用途への再配置と呼んでいる。すでに長らく使われている薬なので、安全性も確かめられている。このため開発経費も安価ですませることができ、願ったりかなったりの薬だ。

 サリドマイドのこの例に挙げられていrる。サリドマイドはかつて妊婦のつわり用などの鎮静薬として大ヒットした。しかし妊婦に投与されたことで、胎児奇形のアザラシ症を発症して販売中止となった。ところがその後の研究で強力な血管新生阻害作用や免疫調整作用や抗腫瘍効果があることが判明、現在は多発性骨髄腫などの治療薬として再承認され活用されている。かつての名優がスキャンダルで失脚したのち、再びドラッグリポジショニングで返り咲いた珍しい例だ。

 抗生剤のミノサイクリンも皮膚科で使うよく使うニキビの薬だ。このミノサイクリンから「脳の炎症を抑える」神経保護作用が見つかった。このためニキビの薬から一躍、筋萎縮性側索硬化症(ALS)やパーキンソン病などの神経変性疾患に向けた臨床研究が加速した。 細菌を殺すための薬のはずが、なぜか「脳内の免疫細胞(ミクログリア)の過剰な活性化を抑え、神経細胞を保護する」という全く別の才能が見いだされたのだ。

 ミノサイクリンは普通は通り抜けることが難しい脳血液関門を、容易に通り抜ける性質がある。このため脳の神経難病への応用が世界中で研究されている。ただのニキビの薬だと思っていたら、脳のボディーガードだったというこのギャップが驚きだ。

 胃薬のムコスタでおなじみのレバミピドは外来でもよく処方している。このレバミピドがまさかの「涙を増やすドライアイ治療薬」に大変身した例だ。レバミピドの得意技は、胃の粘膜をネバネバの「ムチン」で覆って、胃荒れを防ぐのが役割だ。ある時研究者が、「目の表面の結膜も、胃の粘膜と構造が似ているのだから、目にさせばドライアイに効くのでは?」とひらめいた。そしてこの胃薬を、点眼薬として開発。見事に目の表面のムチンを増やして涙を安定させることに成功し、ドライアイのヒット商品に仕立てた。それまでそこそこヒットしていたかつての名優が、舞台を変えたとたんに大ヒットしたというわけだ。

 漢方の大建中湯(だいけんちゅうとう)は、お腹を温めるだけのじみな整腸薬だった。それがまさかの「手術後の腸閉塞(イレウス)を防ぐ外科の必須薬」に大変身した。大建中湯はお腹の冷えに悩むおじいちゃん・おばあちゃんが飲むような民間療法薬だった。ところが改めて臨床試験を行ったところ、腸管の血流を爆発的に増やし、腸のぜん動運動を活発化させることが判明した。 現在では、消化器外科の最前線で、術後の合併症を防ぐために西洋薬と同等、あるいはそれ以上に必須とされる定番の医療用漢方薬に大出世してしまった。普段はしぶい漢方にもこのように大化けするものもある。